センプウキ

扇風機

一、被害者の友人、コウジの証言

 

 ──うん、ユウちゃんに呼ばれて、おうちに遊びに行ったの。──そう、ユウちゃんは、ユウスケって名前。で、ユウちゃんとユミちゃんと一緒に遊んだの。──ユミちゃんはユウちゃんの妹。「すごく楽しいゲームをする」って言ったのに、最初はトランプをしたの。ユウちゃん、とてもダイフゴウがうまいの。

 ──そうそう、おじちゃんの言う通り、ユウちゃんの部屋には扇風機があるよ。──え、怖いから思い出したくないよ。──アメ玉をくれるの、本当に? じゃあ、がんばって思い出すよ。──うん、僕、良い子だよ。

 ユウちゃんの部屋は窓を開けておいても暑いから、いつもあの扇風機が回っているの。──うん、いつもユウちゃんの部屋にあったよ。──ううんと、詳しくって言われても、その日も特に変わった様子は無かったよ。……そう言われて見れば、いつもより扇風機がきれいな気がしたなあ。でも、気のせいかな。

 ──どうして、扇風機に指を入れたのかって? 別に不思議なことじゃないよ。ユウちゃんは、いつも扇風機で遊んでいたもの。指を入れたり、顔と近づけて声を発してみたり、僕もやってみたことあるよ。──え、あの日はもっと危険な遊びをしただろうって? ……やだなあ、おじさん。そんな怖い顔をして……。僕は悪くないよ。ユウちゃんが言い出したんだもの。──う、……うん、そんなに言うなら話すよ。だから僕をしからないでね。

 トランプに飽きると、ユウちゃんが「扇風機で遊ぼう」って言い出したの。でも、それもいつものことだからすぐに飽きちゃうよって僕が言うと「もっと楽しくする方法があるんだ」って、ユウちゃんが言ったんだ。どんなふうに楽しくするのって訊いたら「ろしあんるうれっと」って言ってきたの。「ろしあんるうれっと」なんて聞いたことが無かったから、どんなことをやるのって尋ねたらね、「この扇風機には三枚のハネがあるよね。どんなに速く回転させていても指を入れたら止まってしまう。さんざんやったから、そんなことはもう楽しくないし、面白くもない。だからもっと面白くしよう。三枚のハネのうち、一枚にハズレを作るんだ。で、ジャンケンで順番を決めて、誰かがハズレを引くまで指を入れ続けるんだ」って。で、僕は、とても面白そうって思ったから、すぐにでもやろうって言ったよ。──うん、言いだしっぺはユウちゃんだよ。間違いないよ。

 でもね、ハズレの一枚はとても怖いんだよ。──え、どうしておじちゃんが知ってるの? なんだ、つまらない。え、誰かがハズレを引いたのかも知ってるの? じゃあ、話す必要もないよね。──う、うん、わかったよ。話すから、……怒らないでね。

 確か、僕がやろうって言った後すぐにユミちゃんが「お母さんが怒るから止めよう」って反対したの。──うん、おばさんはユウちゃんのおうちにいたけど、傍にはいなかったよ。──あ、おばさんっていうのは、ユウちゃんのお母さんのこと。ユミちゃんの言葉を聞いたユウちゃんが、すごく怒って「やりたくないならユミはやらなくていいよ」って言い返したの。そうしたら、ユミちゃんの方もムッとしてたけど、……しぶしぶ頷いて、結局、三人でやることになったの。

 確か、その日の三日前におばさんがユウちゃんの指の入れているところを見て「今度やったら指が飛ぶわよ」って言ってたっけなあ。ユミちゃんもそれを聞いてたからおばさんに見つかったらまた怒られるからやりたくなかったのかも……。おばさんは、とても怖いんだよ。

 ──う、うん。話を元に戻すね。ユウちゃんは、ハズレにとびっきり恐ろしい仕掛けを用意したの。おじちゃんは、それも知ってるようだから、言わなくていいよね? ── え、一応聞くの? ふうん。

 ユウちゃんはね、扇風機の三枚のハネのうち、一枚にカッターの刃を付けたの。──そうそう、回転方向にセロテープで固定して。つまり、カッターの刃が付いたハネがハズレで、そのハネのときに指を入れた途端、指が傷つくの。怖いでしょ。──え、どうしてそんなゲームをしたのかって言われても……そんなこと、今頃言われても困っちゃうよ。確かに怖かったけど、とても面白かったよ。今度はハヤト君達と一緒にやろうかな。 ──え、冗談だよ。もうやらないよ。──うん、絶対。──わかったってば。

 ──ええっと、そのときの状況ね。三人でジャンケンをして指を入れる順番を決めた結果、ユウちゃん、ユミちゃん、僕っていうことになったの。──え、初めに何を出したなんて言われても……ううんと、確か、一回目にユウちゃんが「パー」を出して真っ先に負けたんだよ。詳しくって言われても、……ジャンケンって運でしょ。

 その後、扇風機にスイッチを入れて回転させ始めたの。──ええっと、「強風」だったかな。あの扇風機で一番強いスイッチ。カッターの刃の回転が、まんまるのドーナッツの円に見えたもの。──え、スイッチを入れたのはユウちゃんだよ。別に不自然じゃなかったよ、うん。

 で、ユウちゃんはいよいよ扇風機に指を入れたんだ。──そうそう、右手の人差し指だったね。──ううんと、そのときも別に不自然じゃなかったよ。そういえば、ユウちゃんは、「僕は絶対にハズレを引かない」って言ってたっけ。とても自信を持っていたよ。

 ──そうそう、でも、ユウちゃんが真っ先にハズレを引いたんだ。指を入れた途端に、がががががががががががががあって音がして、血飛沫があがったの。すごかったよ、あたりが真っ赤になったもの、びっくりしたよ。ユウちゃんは慌てて指を抜いたけど、血まみれになっていて指がなくなっていたの。悲鳴を上げながらユウちゃん自身が扇風機を止めたけど、扇風機のハネには血がびっしり付いていて、右手の人差し指が無くなっていたの。結局何処にいったのかなあ。おじさんは、ユウちゃんの指を探しているんだよね? ──どうして黙っちゃうのかなあ、頼りないね、おじさん。

 一番初めにユウちゃんがハズレを引いちゃったから、ゲーム自体はすぐ終わっちゃった。あっけなかったなあ、僕がハズレを引くのもいやだけど。

 ──その後? えっと、確かユミちゃんがすぐにおばさんを呼びに行ったの。──そうそう、ユウちゃんのお母さん。で、おばさんが駆けつけて、様子を確認すると、すぐに救急車に電話を入れたの。──え、うんうん。おばさんは慌てていなかったよ。そのおかげで、ユウちゃんはシュッケツタリョウにならなくて済んだって。後で聞いたよ。

 ユウちゃんは無事だったんだよね。──そうなの、元気なんだね、よかった。ユウちゃんがいなくなったら寂しいから。まず、「ろしあんるうれっと」を他の友達のやっていいのかなって訊いてみないと。──え、やらないってば。絶対。他の人にも言わないよ。──う、うん。約束するよ。本当だってば。

 そういえば、おじさん、さっきの約束忘れてないよね? ──え、とぼけちゃって。アメ玉くれるって言ったじゃない。僕、ストロベリー味がいいな。

 その後、後片付けを見ていたんだけど、血飛沫を濡れタオルで拭き取ると、ストロベリーみたいな色になるんだよ。味はぜんぜん違うのにね。

 

二、被害者、ユウスケの証言

 

 ──お見舞いって言うから、お母さんだと思ったけれど。──う、うん。あのことについてね。正直に話すよ。

 それより、これを見てよ。──そう、あのゲームで指を失ってしまったんだ。これじゃ鉛筆も箸もろくに握れないよ。包帯の上からでも判るだろ。おじさん、僕の指が何処へ行ったかしらないかな? こんなんじゃ不自由で仕方がないよ。──う、うう。酷い言い方だなあ。確かに自業自得だけれど、僕もこんな目に遭うなんて思っても見なかったんだよ。──う、ちゃんと正直に話してるって。

 ──やだなあ、おじさん。僕を疑っているの? 自分で自分の指をはねることをするはずがないよ。むしろ、僕はあのゲームに勝てる絶対の自信があったんだ。負けるはずはなかったんだ……。──わ、わかったよ。話すよ。話すから、僕の指を捜してくれるって約束してくれないかな。──ありがとう。じゃあ、絶対だよ。これじゃ不恰好で仕方がないんだからね。

 僕は、扇風機のハネのうち、一枚にカッターの刃を取り付けたんだ。──え、そのことは知っている。どうして、負けることはないって思ったのかって? なんだ、そんなことが訊きたいんだ、ふうん。……いいよ、この際、正直に話すよ。

 僕は、カッターの刃を取り付けた位置をしっかりと記憶しておいたんだ。だから、その場所を知っている僕は絶対に指を傷つけることはない、そうでしょ? ──え、「強風」で回転しているのだから、どのハネにカッターの刃が付いているかを記憶しておいてもしかたがないって? そりゃそうさ。三枚のうち、どのハネがハズレなんかを知っていても意味がない。大事なのは、どの場所につけておいたのかってことだよ。僕は、カッターの刃がちょうど扇風機の外周をまわるように付けて置いておいたのさ。だから、扇風機が回転し始めても、円の中心付近に指を入れればよいんだ。たとえ、カッターの刃の付いたハネに指を差し入れたとしても、絶対に指が傷つくことはないはずなんだよ。どうだい、これで僕が負けるはずはなかったってことが判ったでしょ。──誉めていただいてありがとう。でも、そんな僕の指がどうしてはねられたんだ。おかしい、絶対におかしい。ヤオチョウであったとしても、僕が怪我をすることがないはずなのに。──扇風機の異変? そういえば、扇風機が妙にきれいだったな。お母さんが前日に掃除でもしたのかな。……あ、そういうことか、しまった。迂闊だった。──う、うん。なんでもないよ。なんでもないって。

 ということは、僕の指は、……あああ。

 

三、被害者の母、トミの証言

 

 ──扇風機に細工? 何のことかしら、御存知差し上げませんことよ。──別段、とぼけていませんよ。あれは子供たちの悪戯が齎した惨事じゃなくって? ──ワタクシがそんなに冷淡かしら。オホホホホ、もう、子供たちに話を聞いたんでしょうね。それでしたら判るでしょうけど、あの惨事に対して私がドウコウする余地はありませんでしょ。警察の方はナンでもカンでも人を疑うのですから、オホホホホ。

 ──ワタクシの奇行が有名ですって? だからといって、今回のワタクシに疑いの目を向けられても困りますのよ。──虐待の疑い? あら、とんでもありませんわ。ワタクシは子供を目に入れても痛くないと思っていますのよ。二人とも利発で、虐待をするような欠点など少しも見つかりませんわ。──保険金詐欺容疑? あら、何のことかしら。──「換気扇」? ええ、確かに、不意に動かなくなった換気扇の修理中に旦那の指が巻き込まれましたけど……、オホホホホ、御冗談を。ワタクシは、そのようなことをした覚えがありません。──ええ、本当に。

 ──ええ、おっしゃる通り、あの日の前日に扇風機の御手入れをしましたわ。──ハネが鋭利に? ええ、確かにワタクシがやりましたことですよ。三枚のハネとも鑢(やすり)で丁寧に削って、綺麗な光沢を出しましたの。御手入れに半日も掛かりましたが、おかげで、とても涼しい風を送ることができるようになりましたのよ。も綺麗になりましたし、心持ち、電気代をうかすことができると思っていましたのに、ユウスケったら血と肉(、)片(、)でべとべとにしてしまうんですもの。あの後の御掃除が大変でしたわ。

 ──え、コウスケが指を失ったのは、鋭利になったハネが原因ですって? オホホホホ、まさか……。扇風機のハネはプラスティックで出来ていましたのよ。いくら鋭利にしても人間の指を傷つけるほどに研ぎ澄ますことなど出来るはずがないじゃありませんか。──それが可能だ。あそこまで尖っていたのなら、大根までも「大根下ろし」になってしまう? オホホホ。面白い御冗談ですわ、オホホホ。ミキサーじゃありませんし。

 ──え、それが本当だ。ユウスケの指は粉々になったのだって……。オホ、それは笑えませんわね。では、コウスケの右手の人差し指は元に戻らないのですね、可哀相に……。──故意? どうしてワタクシがそのようなことをしなければなりませんの。面白い御冗談ですわ、オホホホホ。

 ──ええ、「今度やったら指が飛ぶわよ」と忠告したことは確かです。そもそも、危険なことをしている子供に諭すのがいけないことだとおっしゃるのかしら? オホホホホ。

 ──もし、カッターの刃なら、指が砕けるような惨事にならなかった、と言うのですか。では、ユウスケは「ハズレ」を引かなければならなかったのですね。しかして、本当にそうかしら。あなたの御機嫌が麗しいなら、カッターの刃では指が砕けないことを証明したらいかがでしょうか。オホホホホ。

 

四、被害者の妹、ユミの証言

 

 ──ええ、私は判っていたわ。あの扇風機にあのような細工がされていたなんてね。どうしてお兄ちゃんは気づかなかったのかしら。確かに前日には遊びに行っていたのだけれど、……きっと自分の思い付きを過信しすぎたのね。

 ──え、躾? いえいえ、躾なんてものではないですよ。あれは、遊(、)戯(、)。──度が過ぎている……そうなんですか? うちではそれが普通なんですが。──どんな遊戯って言われても……。お母さんやお兄ちゃんに訊いていないんですか? ──え、そんなに言うのでしたら……。じゃあ、お話しましょう。

 遊戯は定期的に行われていて、今回の事もその一環で起こったことです。遊戯の規則は簡単。御題と、勝利条件があり、真っ先にその条件を誰よりも満たしたものが勝者。勝者は次の進行役になることが出来るのよ。でもね、遊戯が始まって以来、ずっとお母さんが勝者なんですよ。──ええっと、いつから始まったのかしら。ごめんなさい、良く判らないわ。私のモノゴコロのついたときからあったものだから。──え、そうそう。今の参加者は、お母さんとお兄ちゃんと私の三人ね。──今っていうのが意味深? ふふふ、どのように解釈していただいても結構ですわ。

 今回の遊戯の御題は「ミキサー」で、勝利条件は「指を飛ばす」よ。進行役のお母さんが決めたの。──ええ、確かにお兄ちゃんの指が飛んでしまった……でもね、お兄ちゃんは違反を犯したから。──どんなって、説明も無しに部外者を遊戯に巻き込んではいけないのよ。今回の場合だと、コウちゃんを巻き込んだから。ただ単に「ゲームをやろう」っていっただけで、どのような趣旨のものかを少しも説明しなかったんだから。部外者には、ちゃんと何をし、何が勝利条件であるかを説明しないといけないの。つまりは、遊戯の「当事者」にしないといけないの。それを怠ったので規則違反。警戒しない相手を陥れては面白みに欠けるからっていう理由らしいわ。──ええ、お母さんがそう言ったわ。尤も、部外者を巻き込んでいいなら、お兄ちゃんならどんなことでもしかねないわ。指を失ったのは、アンフェアの報いね。

 ──私が何処まで知っていたかって? ううんと、まずお母さんが扇風機を掃除していたことでピンときたわ。「扇風機」を「ミキサー」にたとえたのね。──実際のミキサーを使わなくても良いかって? ええ。御題はあくまで見立てで、「指を飛ばす」ことで、勝利することになるの。お兄ちゃんの敗因は、「ミキサー」イコール「扇風機」という、お母さんと同じ着想をしたことね。ふふふ。

 お兄ちゃんは、あの日きっと私に「ミキサー」を仕掛けたの。──そうそう、「扇風機」でね。

 ──どうしてあの扇風機に罠が仕掛けられていることを教えなかったのかって? ふふふ、対戦相手にわざわざ有利な情報を与えるはずがないでしょう。あの時点でお兄ちゃんにお母さんの罠を教えたら、私が危険にさらされたんだから。そもそも、情報不足と警戒心の無さは、自己責任でしょう?

 ──ええ、確かに私は「お母さんが怒るから止めよう」って、「ろしあんるうれっと」をやめさせるような発言をしたわ。──どうしてって。そう言わなければ不自然でしょ。決してお母さんに加担したわけではないのだけど……。

 ──え、ええ、私はお兄ちゃんのトリックを見破っているわけではなかったわ。──ふうん、そんなこと言ってたの。カッターの刃は外側を回っていたので、内側の方に指を入れれば絶対に安全……ね。なかなか上手く考えたものね。でも、お兄ちゃんが自信を持っていた以上に、私も私の指が安全だっていう自信があったもの。──どんなって。ふふふ。知りたい? そんなに大した事じゃないのですよ。お兄ちゃんはね、無意識にジャンケンをするとき、最初に必ず「パー」を出すのよ。まぬけでしょ、ふふふ。あのときも案の定「パー」を出してきたの。きっと勝機に焦ってジャンケンの順番なんてどうでも良かったのでしょうね。でも、扇風機の外側だろうが、内側だろうが、指を入れたら「ミキサー」状に粉々になってしまうのだから、実はジャンケンの順番こそ大切だったのにね、ふふふ。

 あのジャンケンで負けなくて良かったわ。もし、私の右手の人差し指が無くなったら「チョキ」が出せなくなるじゃない。そうなってしまうと困るのよ。でも、お兄ちゃんは今後も「パー」を出せるわね。良かったわ、ふふふ。──え、ジャンケンは三人だから負けていた可能性もあるって? ふふふ。コウちゃんはね、ジャンケンをするときに私がウインクを二回することで、「チョキ」を出すのよ。──え、コウちゃんはジャンケンが運だって言ってたの? 子供を甘く見ないほうがいいわ、ふふふ。

 ──君は、何も仕掛けなかったのかって? 失礼ね。私がそんなに不能者に見えるのかしら。ちゃんと仕掛けたわよ。「換気扇」が詰まったかと見せかけて、直そうとした途端、指を絡み取らせるようにね。でも、お母さんは掃除をしなかったどころか、故障にも頓着しなかったのよ。だから、今回もお母さんが勝者。まったく歯が立たないわ、ふふふ。

 ──え、お母さんを訴えられない? 確かにそうでしょうね。お母さんは「ミキサー」を作っただけですもの。お兄ちゃんが自らの意志でそれに指を突っ込んだのでしょうから。世間的に見れば、「扇風機の刃にカッターを付けた子供」が仕出かした事故でしょうからね。でも、安心してください。お母さんの勝利は揺るがないですから。

 ──ええ、また新たな遊戯が始まっているわ。──え、今回の遊戯の御題……教えてもいいけど、どうするの? ──未然に防ぐ? ふふふ、いいわ。教えてあげる。でも、それを知ることによって、貴方は遊戯の「当事者」になるのよ。──構わない? え、ええ、そんなに言うのなら、教えてあげますけど。

 ……え、え? でも、そんな、……やっぱり駄目だわ。──そんなに、泣きそうな顔でせがまれても。……だって、すべてがお母さんの思うままなんだもの。──え、何のことかって言われても……。お母さんは私が貴方を当事者に巻き込むことまで想定していたのかしら、やっぱりお母さんには敵わないわ。──え、首が掛かっているから、どうしても教えてくれ? ふふふふっふふふふふふ。

 じゃあ、仕方が無いわ、教えてあげる。今回の遊戯のお題は「ネクタイ」で、勝利条件は「首を飛ばす」よ。……後生だから、首の飛ばないように奔走してくださいね。

 どうしたの? そんなに青い顔をして、黙ってしまって……。貴方が聞きたがっていたことを教えてあげただけじゃない。

 あ、それから、貴方が聴取したコウちゃん、──そうそう、コウジ君。どうやら「ろしあんるうれっと」を広めているようね。──そうそう、「扇風機」にカッターの刃をつけて。きっと、アメ玉をあげなかったからよ。子供心が判っていないわね。ふふふ。貴方の責任かしら?

 ア、そんなに青い顔して、何処に行くのかしら。ア、アア、あんなに慌てふためいて。……首でも吊らなきゃいいけれど。……ふふふふふ。

 

 平成十三年十二月二十九日