山水堂
セッケン
石鹸
付き合って三年目、ようやく彼女は僕を家に迎え入れた。
といっても、彼女は、マンションで単身暮らしをしているので、今まで、どうして僕を招き入れなかったのに怪訝を禁じえなかった。若しかしたら、僕以外に意中の人がいるのか知らん、或いは、何らかの悪因があって、いみじく僕を遠ざけているのか知らんという疑いを打ち明けたら、何とも快く僕を招待してくれたのだから、今までこのことを持ち上げるのを遠慮がちだった自分にばかばかしささえ感じてしまった。
初めて入った彼女の部屋は、実に整頓されていて、新鮮で心地が良かった。彼女の生活の領域に踏み入ることができて嬉しささえ感じた。
そして、二時間の会話を楽しんでいるところに僕は、蓄積された生理的欲求によってトイレを借りなければならなくなった。いくら気兼ねのない彼女に対しても、トイレを借りるという行為を切り出しにくかったが、頼んだら、快く貸してくれた。
で、手を洗いつつ、洗面台の脇に置いてあった石鹸を借りようとした瞬間、──手にしたそれに我が目を疑った。黒い塊のように見えたが、よく見ると、それは木乃伊の丸まった手のようだった。
僕の驚きの声に反応して彼女が見に来ると笑いながら言った。
「ああそれ、エジプトのお土産よ。盗掘された木乃伊が需要あったのは、石鹸にする為だったらしいの。でもそれは、レ(、)プ(、)リ(、)カ(、)だから安心してね。」
そんなことを聞いても安心できなかった僕は急いで手を拭くと話題を変えようと努めた。
「そう言えば、前の彼氏は行方不明だったっけ? 」
「え、そんなこと言ったっけ。覚えてないなあ。」
平成十七年二月十三日